用語集

Abundance [存在量]
UV 検出器の吸光度の表示と同様に、バックグラウンドからのシグナルの増加量で表されます。 x軸をm/z とした時にはイオンの増加、x軸を時間またはスキャンとした場合は全イオンの増加量を示します。基準ピークと比較した1 つの化合物のフラグメンテーションに起因する全てのイオンのシグナル(各イオンの相対存在量)が、ライブラリスペクトルとのフラグメントパターンのマッチングに用いられます。

Accurate Mass [測定精密質量]
質量の実測値で、誤差範囲は5ppm 程度です。測定精密質量は、元素組成解析などに用いられます。計算精密質量は、ある化合物の精密質量の理論値です。

ASAP (atmospheric solids analysis probe) [大気圧固体試料分析プローブ]
1970 年代にHorning により開発された技術を基に、McEwen とMcKay が開発したサンプルのイオン化の方法です。サンプルのイオン化には標準的なAPCI プラズマを用いますが、加熱した窒素の気流中にサンプルを設置することによってイオンを生成します。その熱は非常に多くのサンプルを気化し、APCI プラズマによって生成した準安定イオンと電荷交換することによりイオンが形成されます。精密質量測定用の機器を用いると、低濃度の複雑な混合物から各化合物を比較的明確に同定することができます。DART およびDESI を参照してください。

Atmospheric Pressure Ionization (API) [大気圧イオン化法]
エレクトロスプレーイオン化法(ESI)や大気圧化学イオン化法(APCI)など、大気圧下で行われるイオン化技術を指します。

Atmospheric Pressure Chemical Ionization (APCI) [大気圧化学イオン化法]
当初は「溶媒を媒介とするエレクトロスプレー」と言われた方法で、溶液からは直接イオン化しにくい中性分子に多く用いられます。APCI では、霧状になったサンプルが移動する途中に配置され 66 た鋭利なピンに電流を流し、溶媒由来の準安定なイオンのプラズマを生成、サンプルがプラズマを通り抜けるときに、これらのイオンから電荷の受け渡しを行います。溶液が通り抜けるプローブを加熱することで、イオン化の前にサンプルを気化しておきます。

Atmospheric Gas Chromatography [大気圧ガスクロマトグラフィー]
2002 年にDuPont のCharles McEwen によって開発された技術です。加熱した輸送ラインを用いることで、通常のGC からの溶出物を、質量分析計の標準的なAPI(あるいはESI/APCI)イオン源へと導入できます。これにより、GC で分析することが最も多かった化合物の分析のために、ESI からGC への切り替えが容易に短時間でできるようになりました。イオン化モードはAPCI かAPPI のいずれかとなります。

Atmospheric Pressure Photoionization (APPI) [大気圧光イオン化法]
1980 年代に開発された手法です。クリプトンランプを用いて約10 eV で、PAH やステロイドのようなESI やAPCI に適さない無極性化合物をイオン化するのに十分な光子エネルギーを生み出せることがわかった2000 年以降に、製品化されました。

Base peak [基準ピーク]
一般にはスペクトル中で最大の強度を持つピーク。E I のように広範囲の構造情報が得られるイオン化法では、親イオンや分子イオンが基準ピークとなるとは限りません。

Calibration [キャリブレーション]
 四重極の場合では、質量分析計のソフトウェアがMS フィルタの条件(四重極のRF/DC の比)に対するシグナルを取り込んでいる間、質量が既知の化合物を連続的に導入します。取り込んだシグナルをリファレンスファイルと比較し、ソフトウェア上にキャリブレーションテーブルを作成します。四重極を通過したイオンの質量電荷比は、キャリブレーションテーブルで補正して表示されます。「定量およびキャリブレーション」のセクションを参照してください。

Charge-Residue Mechanism [電荷残留メカニズム]
- 1968 年にMalcolm Dole によって初めて提唱された、エレクトロスプレーイオン化法におけるメカニズムで、液滴が蒸発してもその電荷は変化せずに保持されるという仮説です。液滴の表面張力を電荷の斥力が上回ると爆発が起こり、多くの小さな液滴に変化します。液滴が単一のイオンのみの状態になるまで、このようなクーロンの法則に従った分裂が続きます。最後の液滴から溶媒が蒸発すると、気相イオンとなります。

CI (chemical ionization) [化学イオン化]
分子イオンの生成を促すための試薬を導入することで、低真空下(0.4 torr)でコリジョンを起こすイオン化法です。感度が向上する場合もあります。電子衝撃によるイオン化よりもはるかに低いエネルギープロセスであるため、フラグメンテーションが抑えられ、「ソフトなイオン化技術」と言われています。「電子イオン化」を参照してください。

Collision-Induced Dissociation (CID) [衝突誘起解離]
衝突活性化解離 (CAD) とも言われています。ヘリウム、窒素、アルゴンのような中性のガス分子が満たされたコリジョンセルへと続く真空領域で、高い運動エネルギーを持つよう電位を利用して加速され、分子イオンがフラグメント化するというメカニズムです。運動エネルギーの一部が衝突によって変換またはコリジョンに取り込まれると、化学結合が切断され、分子イオンはより小さなフラグメントになります。電子伝達解離(ETD)、電子捕獲解離(ECD)など、同様に「特別な目的」を持ったフラグメンテーションの方法があります。「生体高分子のイオン化法」のセクションをご参照ください。

DART (direct analysis real time) [実時間直接分析]
2002 年にRobert Codyらによって開発された方法です。機能はAPCI に似ており、アプリケーションはDESI と類似しています。サンプルを基質に載せ、APCI と同様のプロセスで形成されたエネルギーを持つ粒子と衝突させます。すなわち、準安定イオンはプラズマによって形成され、加熱した窒素ガスをサンプルに直接当てることによって輸送が行われます。大気圧GC とASAP で取り上げた、McEwen の研究をご参照ください。

Delayed Extraction (DE) [ディレイドエクストラクション]
MALDI-TOF 用に開発されたもので、イオンが生じてからフライトチューブの中へと加速する前の、およそ150 ナノ秒でイオンを「冷却」し、収束させます。冷却されたイオンは冷却されていないイオンより低い運動エネルギー分布を持つため、TOF アナライザに入る際のイオンの一時的な拡散を押さえ、その結果、分解能と精度が向上します。DE はタンパク質のような30000 Da 以上の高分子には有効ではありません。

DESI (desorption electrospray ionization) [脱離エレクトロスプレーイオン化]
2002 年にGraham Cooks によって初めて発表された方法です。 一般的には、不活性物質表面からソフトな二次イオンを生成させる手段を指します。MALDI と同様に、表面に対し約50 度の入射角で向けられたESI プローブを使用し、イオンを化学的に飛ばし、質量分析計に導入します。皮膚、果実全体の残留農薬検査などの多くの極性・無極性表面物質からサンプルを前処理することなく、直接情報を得ることができます。大気圧GCとASAP で紹介したMcEwen の研究をご参照ください。

DIOS (desorption ionization on silica) [シリカ上脱離イオン化]
特に低分子化合物のための、MALDI 基質中のサンプル調製の新手法として注目されました。シリカは妨害イオンを作らないため、プレート表面の基質として用います。プレート製造の困難と表面が汚染されやすいことがわかり、1990 年代後半には製品化の可能性は小さくなっていました。

Direct Current (DC) [ 直流電圧]
MSの分野では、四重極がマスフィルタとしてどのように機能するか説明する際に、通常「高周波電圧」と共に用いられます。4本のロッドを平行に配置し、高周波電圧(RF)と直流電圧(DC)を組み合わせる方法が、1953 年にWolfgang Paulによって紹介されました。4本のロッドは、一定の振動振幅によって特定の質量範囲内のイオンだけがアナライザに集まるように働き、質量分離機あるいはマスフィルタとしての役割を果たします。

EI (electron ionization) [電子イオン化]
「電子衝撃」イオン化という不正確な表現が用いられることもあります。粒子(原子または分子)と電子の相互作用によるイオン化方法です。化学結合を分裂させるためにkcal/mol レベルの高いエネルギーを用いるので、「ハードな」イオン化と言われています。イオン化電圧(一般に70eV)は、電子イオン化を行うために電子を加速するための電圧勾配です。CI とは異なり、EI は高真空下で動作させることで、制御不可能な衝突を回避します。アナライザはさらに高い真空(10-4 ~ 10-6 torr)で使用します。

Electrospray (ESI) [エレクトロスプレーイオン化]
いわゆる「ソフトな」イオン化技術です。大気圧イオン化(API)技術の中で最も広く利用され、 1980 年代後半以降、製品としても重要なものになりました。高いエネルギー(3-5 kV の電圧)を導電性チューブ(ステンレスキャピラリーチューブ)にかけると、その導伝性チューブの内側を流れる液体がレイリー極限を超え、チューブ先端から霧状に放出されます。霧状の液滴( クーロン爆発の結果)により、イオンを含む液滴が生じ、半径がおよそ10μmになるまで脱溶媒されます。一般的には、イオンはプロトン化され、ポジティブモードではM+H という形で、ネガティブモードではM-Hという形で検出されます。

Ion [イオン] 質量分析計は、分子に少なくとも1 つの電荷を持たせることができれば、検出を行うことができます。1 つの電荷を帯びる(例えば、分子が電子を失うことによりプラスに帯電したカチオンラジカルとなる、あるいは分子へのプロトン付加・水素付加によりプラスに帯電した擬似分子イオンとなる)と、分子量を表すものと考えることができます。

Elemental Analysis [元素分析]
イオン、分子、ラジカルの整数質量は、その構成元素の整数質量の合計です。精密質量測定は、計算された元素組成を基に行いますが、一般的に「元素分析」という用語は、構造ではなく元素組成を決定する目的で、無機材料、場合によっては金属固体サンプルの分析に用います。放電(または低電力グロー放電)デバイスでサンプルをイオン化する場合には、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源が一般的になっています。ppt レベルで分析できる装置は一般的ではありません。

Exact Mass [計算精密質量]
化合物の精密質量の理論値です。一方「測定精密質量」は、測定された精密質量のことで、計算精密質量との質量誤差は5 ppm 程度です。

FAB (fast atom bombardment) [高速原子衝撃]
ソフトなイオン化の中で初期の技術の1 つです。結果は、主として分子イオンおよびわずかなフラグメントイオンとして得られます。化合物をマトリックス(グリセロールをよく用いる)と混合し、フローあるいは一般にはプローブの先端に乗せて、高エネルギー原子の通り道に設置します。高エネルギーにする原子としては、キセノンやヨウ化セシウムよく使用されます。この技術は 10000 Da 未満の生体分子に有効で、新規ペプチドの精密質量測定を行う場合には、特に磁場セクター質量分析計と共に使用することが重要です。感度は非常に良好で、fmol レベルです。その技術は習得するのが難しく、グリセロールが質量分析計のイオン源を汚したり、質量が小さい化合物はグリセロールイオンに隠れることがあります。ESI の登場により、この技術は、ほとんど使用されなくなりました。

Field Ionization (FI) [電界イオン化]
FI によるソフトなイオン化では、様々な化合物に対し、ほとんど、または全くフラグメンテーションが起こりません。石油化学分野のアプリケーションには、この技術が特に重要です。この分野では、フラグメンテーション(EI)や複雑なイオン化特性(CI)のために、他のイオン化技術の使用には制限があります。高い電圧がかけられた細いワイヤーをインデンのような有機化合物の蒸気の中で加熱すると、ワイヤーの表面には樹状結晶が残り、これが熱分解されて非常に良好な導電性フィラメントができます。このフィラメントの先端が非常に強い電場となり、電界イオン化が起こります。サンプル分子は、FI エミッター上にできた炭素結晶の先端のすぐ近くを通過します。FI エミッターは1 組の中空の抽出ロッドのすぐ近くに位置しています。エミッターにはグラウンド電位がかけられており、比較的高い電圧(12 kV)を炭素結晶の先端部で電場を作っているロッドにかけます。 70GCのカラムはエミッターワイヤーのすぐ近くに直列に位置しています。電場の影響で、化合物由来の電子による量子トンネル現象によってラジカルイオンが生成します。

FIA (flow injection analysis) [フローインジェクション分析]
カラムを通さずにLC のインジェクタからサンプルを注入する方法(複雑なスペクトルとならないように、事前に精製することで妨害物質を取り除いたサンプルあるいは標準溶液を注入するのが一般的です)。LC はサンプルを注入するためだけの目的で使用されます。

Filament [フィラメント]
電子イオン化では、フィラメントは化合物をイオン化するために、化合物と相互作用する電子の供給源となります。一般的には、金属のワイヤー(平坦または丸い)で作られており、電流により加熱されて70eV の電子を与えます。

Fragment ion [フラグメントイオン]
親となる分子イオンからの開裂によって生成するイオンです。フラグメントイオンの合計は、親イオンと等しくなります。ある条件の下では常に同じ結合が開裂するため、パターンの予測が可能です(同じ種類のイオンで同じ量比)。MRM 測定を行うことで生成する、プロダクトイオンについてもご参照ください。

Gas-Phase Ion [気相イオン]
質量分析計による測定を行うためには、休止状態の化合物をイオンへ変換しなくてはなりません。これまで述べてきたように、気相イオンを得る方法は様々です。積極的にフラグメントを生成する方法もあれば、化合物を壊さない方法もあります。化合物にエネルギーを与え、気相中でイオンを生成するのに対し、例えばLC では化合物を分離するために移動相として液相(凝縮した液体)を用います。

Hybrid [ハイブリッド]
一般的には、2 つの異なるタイプのものを組み合わせた装置を指します。初期の「ハイブリッド」とは、磁場セクターと四重極の組み合わせのことでした。現在のQTOFは、四重極とTOFのハイブリッドです。

Ion [イオン]
質量分析計は、分子に少なくとも1 つの電荷を持たせることができれば、検出を行うことができます。1 つの電荷を帯びる(例えば、分子が電子を失うことによりプラスに帯電したカチオンラジカルとなる、あるいは分子へのプロトン付加・水素付加によりプラスに帯電した擬似分子イオンとなる)と、分子量を表すものと考えることができます。

Ion Current (Total Ion Current) [イオン電流(全イオン電流)]
イオン源で生成した荷電粒子から検出される電流値。質量分析計を100~500 Daの範囲でスキャンした場合、選択された時間の範囲内にイオン源の中に存在する全てのイオンの合計が、全イオン電流となります。装置が1 つのイオンのみを検出する場合(選択イオンモニタリング)、全イオン電流は選択されたイオン電流のみの合計です。

Ion Cyclotron (ICR) [イオンサイクロトロン]
サイクロトロンは、一定の磁場を与えたセルの中で、静電気的にイオンを捉えます。RF のパルスによって、イオンは軌道を持って運動し、軌道を描いたイオンが、セルの検出プレートで小さな信号を発生します(イオンの軌道周波数)。周波数はイオンのm/z に反比例し、信号の強さはセル中の同じm/z のイオンの数に比例します。サイクロトロンは、非常にセル圧力が低いため、イオンの軌道が長時間維持され、高い分解能での測定が可能になります。高速フーリエ変換イオンサイクロトロン(FTICR)は、非常に近似した質量のイオンを分離することが可能な、非常に高い質量測定の能力を持っています。多くのアプリケーションに対しては非実用的ですが、14.5 テスラの磁石を使用することで350 万以上の分解能での測定が可能となるため、電子一つよりも小さい質量差を持つ分子同士の違いを識別することができます。

Ion-Evaporation Mechanism [イオン蒸発メカニズム]
1976 年にIribarne とThomson が提言したメカニズム(エレクトロスプレーイオン化をご参照ください)。クーロンの法則による分裂によって小さな液滴が生成する過程におけるメカニズム(「電荷残量メカニズム」を参照)で、Dole の電荷残量モデルで液滴が生ずる方法と類似しています。しかしながら、イオン蒸発の理論によると、液滴表面の電場が非常に強いため、液滴表面を引きはがし、気相イオンへと直接変換します。

Ion Mobility [イオンモビリティー]
イオンの大きさ、形状、電荷、質量の組み合わせによってイオンを識別する技術です。イオンモビリティーはタンデム質量分析と組み合わせることによって、従来の質量分析や液体クロマトグラフィーを含む他の分析技術では困難であった測定と分離が可能になります。イオンモビリティー質量分析(IMMS、IMS は「イメージング質量分析」の略語としてよく用います) は、携帯型の装置として空港で使用されており、移動度が既知の低分子を迅速に(20 ミリ秒で)検出します。IMMS では広範囲の化合物の分析が可能です。

Ion Source [イオン源]
イオンの経路のうち、アナライザより手前にある部分で、化合物をイオン化させるための物理的な空間です。インターフェイスのタイプによって、それぞれ最適な結果が得られる形状となっています。

Ion Trap [イオントラップ]
リニアイオントラップとQトラップ(四重極トラップ)があります。Wolfgang Paul は、四重極およびQトラップの開発によって、1953 年にノーベル賞を受賞しました。イオントラップの原理は、四重極と類似しています。しかし、四重極が流れるイオンにフィルタをかけるのに対し、イオントラップは3 次元の空間にイオンを封じ込めます。イオンが有限な空間を満たし飽和しそうになると、トラップあるいはサイクロトロンが選択したイオンをはじき出して検出します。RF 電圧を「サンドウィッチ」のようにかけた(エンドキャップ電極を向い合わせる)、2 つの電極にはさまれた空間に、イオンを閉じ込めます。RF 電圧をスキャンすることでイオンは長期の振動、すなわち閉じ込められた状態から取り出されます。従って、複雑なマトリックス中のサンプルを測定する場合には、イオンを蓄積する容積や能力によって、その装置のダイナミックレンジが限定されます。
連続して起こるフラグメンテーションや、1つの化合物の構造情報をより多く得ること(すなわち、イオンを断片化し、特定のフラグメントを選択するプロセスを繰り返すこと)は、MSn と言われています。GC のピーク幅は、一回のフラグメンテーション(MS/MS またはMS2)より多くの回数のフラグメンテーションを行うのには十分ではありません。イオントラップは、四重極およびセクター型のように空間を用いるのではなく、時間差でMS/MS あるいはフラグメンテーションを行います。従ってイオントラップは、ニュートラルロスあるいはプリカーサイオンの比較を行うようなMS/MS 分析に用いることができません。さらにイオントラップ型の装置でMS/MS を行う場合には、MSMS スペクトルの低質量側の3 分の1 が、原理的に失われてしまいます。その問題を解決するために、あるメーカーではソフトウェアを使って、データ取り込み中にパラメータを切り替えることで幅広いスキャンを可能にしました。四重極とイオントラップでは機能的なデザインが類似しているため、双方の利点を組み合わせ、ハイブリッド化されました。それによって感度が改善され、それぞれ単独ではできなかった測定ができるようになりました。これはリニアイオントラップ(またはQトラップ)と言われます。リニアイオントラップは(三次元イオントラップよりも)イオンを蓄積する容積が大きく、ダイナミックレンジの問題が改善されています。

Isotope Ratio [同位体比]
自然界の同位体の存在比は一定で、安定していると考えられていますが、正確に測定すると非常に大きく特徴的な変動を示すことがあります。同位体存在比の測定は広範囲のアプリケーションで有効で、例えば代謝研究ではトレーサーとして同位体をラベル化して使用しており、また気候の研究では有孔虫の酸素と炭素の同位体比の温度による変化を測定して利用しています。岩石の年代測定では、鉛、ネオジウム、トロンチウムのような放射性同位元素を用いています。物質の由来を知るために炭素の同位体比を利用することもあります(例えば、天然物か石油由来の合成物かを明らかにします)。
一般的には、複数の検出器(1 つの同位体に対し1 台)を設置した磁場セクター型質量分析計を用います。例えば有機化合物がCO2、H2O やN2 に分解されるように、複雑な化合物は小さな分子にしてから測定します。

Laser Ablation [レーザーアブレーション]
電荷が転移しやすいように、媒介物となる物質に化合物を溶解してイオンを生成させる方法。その混合物にレーザーを照射すると、上部の空間に飛び出してイオンが生成し質量分析計に引き込まれます。質量の小さなイオンでは、マトリックス由来のイオンによる高いバックグラウンドが妨害するため、高分子そのものを観測するためのソフトなイオン化技術として特に有用です。

Magnetic Sector [磁場セクター]
イオン源を透過したイオンは加速され、垂直方向にある磁界を通り抜けます。イオンの運動と垂直の方向に加速されるため速度は一定ですが、円形路の中へと移動します。従って磁場セクターはアーク状に設計されています。一定の運動エネルギーで異なる質量電荷比を持つイオンは、異なる磁場の強さで検出器のスリットを透過します(「収集スリット」と呼ばれます)。磁場セクターは単独で、質量電荷比によってイオンを分離します。しかしながら、イオン源を透過したイオンが全く同様のエネルギーを持つわけではない(従って同じ速度にはならない)ため、分解能は良くありません。イオンを運動エネルギーに対して垂直に移動させる磁場セクターのように、イオンの持つ運動エネルギーによってイオンをフォーカスする電場セクターが付け加えられるのが一般的でした。

Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization (MALDI) [マトリックス支援レーザー脱離イオン化法]
1988 年に、田中、Karas およびHillenkamp によって初めて紹介された手法で、マトリックス中の分析対象にパルスレーザーを照射して気相イオンを生成させる方法です。非常に大きなペプチドやタンパク質をイオン化して、インタクトとして検出するのに有効であること分かっています。一般的には、飛行時間型(TOF)のためのサンプル導入法として用いられ、MALDI-TOF と言われています。

Mass-to-Charge Ratio (m/z) [質量電荷比]
荷電粒子はイオンの電荷数と質量の比で表され、文献や一般的な表現では「m/z」が用いられます。イオンの元となる化合物は、原子質量単位(u)、ダルトン(Da)または分子量(mw)で表記されています。

Mean Free Path [平均自由行程]
イオンがアナライザに入ってから検出されるまでの距離。真空下では、平均自由行程は、微量の空気との衝突という点とイオンを分析するのに必要な時間から考えると、比較的長くなっています。以下に例を示します:

1 気圧(1000トル)の空気に含まれる分子は、3×1022molecule/cm
1×10-5 x torr のチャンバーに含まれる分子は、3×1011 molecule/cm
λ÷圧力(torr)= 最小平均自由行程(cm)
ここでは、λ=5 ×10-3 cm

Molecular Ion [分子イオン]
分子が電子を捕獲するとアニオン、失うとカチオンという形でイオンが生成します。擬分子イオンをご参照ください。

Monoisotopic Mass [モノアイソトピック質量]
元素のモノアイソトピック質量とは、各元素について天然における存在比が最大の同位体の計算精密質量のことです。質量分析計では、最も近い整数値だけを出力します。従って、C50H102 の分子イオンの場合、702.7825 のモノアイソトピック質量で、四捨五入すると703 という整数になるので、m/z= 702 の代わりにm/z=703 のピークとして表されます。一方でイオンが1000 Da の整数質量を超えると、マススペクトルに整数のm/z ピークは観測されません。モノアイソトピック質量のピークは、等量のイオンのマスディフェクトによって、整数質量ピークが相殺されるためです。500 Da 以上の質量を持つ1 価のイオンについては、m/z のスケール全体でユニットマス分解能のある、四重極あるいは四重極イオントラップ型質量分析計のエレクトロスプレーのような技術を用いて、同位体ピークを明確に分離することができます。整数質量をご参照ください。

Multiple Reaction Monitoring (MRM) [多重反応モニタリング]
タンデム四重極型質量分析計を用いて特定のイオンのみを検出することです。1 つ目の四重極(Q1)でプリカーサイオンをフィルタにかけ、RF のみ印加した2 つ目の四重極(Q2)でプリカーサイオンと分子(通常アルゴンのような気体)を衝突させ、3 つ目の四重極(Q3)で特定のプロダクトイオンのみを透過させた後、検出します。特に製薬関連企業でのハイスループットな定量分析に用いられます。

MSn
イオン源にある特定のイオンを選択してフラグメンテーションさせることのできるイオントラップから派生した造語。フラグメンテーションのプロセスを繰り返すことで化合物の同定を行います。十分なエネルギーとサンプル量および時間があれば、選択したフラグメントをさらにフラグメンテーションさせ(繰り返し数=n)、測定を繰り返すことができます。

Nominal Mass [整数質量]
電子イオン化法では、m/z の軸を較正するために、パーフルオロトリブチルアミン(整数分子質量671)のようなパーフルオロ化合物をよく用います。これは、イオンの整数質量とモノアイソトピック質量がほぼ一致するためです。イオンが1000 Da の整数質量を超えると、マススペクトルに整数のm/z ピークが観測されなくなります。モノアイソトピック質量のピークは、等量のイオンのマスディフェクトによって整数質量ピークを相殺します。500 Da 以上の質量を持つ1 価のイオンについては、m/z のスケール全体でユニットマス分解能のある、四重極あるいは四重極イオントラップ型質量分析計のエレクトロスプレーのような技術を用いて、同位体ピークを明確に分離することができます。モノアイソトピック質量をご参照ください。

Open Access (OA) [オープンアクセス]
ウォークアップシステムとも言われる、ワークフロー制御のことです。十分な訓練を受けたオペレーターがLC やGC/MS のメソッドを作成することで、大多数を占めるスペシャリストではないユーザーにも利用可能となります。ユーザーは専門的なトレーニングを必要とせずに、最新の技術を使用することができます。

Parent Ion [親イオン]
「プリカーサイオン」の方が適切な表現です。「分子イオン」と同義語として用いられます。MRM ではプロダクトイオンの存在も考慮されます。プロダクトイオンをご参照ください。

Particle Beam (MAGIC, ThermaBeam®) [パーティクルビーム]
ジョージア工科大学で開発され、BrownerらによってMAGICとされました。これがさらに洗練されて、パーティクルビームと言われるようになりました。加熱されたLC からの溶液を、噴霧し、溶媒を除去します。(通常2 台の)真空ポンプにより、続くスキマーコーンへ溶媒蒸気が引き込まれます。結果として、「乾燥された」液滴はセパレーターを通過して加速され、質量分析計のイオン源に到達します。そこで従来のGC/MS に似たフラグメントイオンが生成します。この技術は現在ではあまり使用されていません。

Probe, also Solids Probe or Direct Insertion Probe [固体試料プローブ、直接導入プローブ]
真空ロックを通して質量分析計のイオン源に金属のロッドを挿入します。サンプルをプローブの先端に付着させ、イオン化ビームの途中に配置します。一般的にEI あるいはマニュアルで1 回の分析を行う場合に使用されます。FAB のように、イオン化を促進するようなマトリックスと混合して、サンプルを測定することもあります。FABをご参照ください。

Product Ion [プロダクトイオン]
現在は推奨されていない「娘イオン」とも言われましたが、プリカーサイオン(あるいは「親イオン」)のフラグメンテーションによって生じたイオンのことです。衝突によって、プリカーサイオンは化合物に特異的なプロダクトイオンを生成するため、同定の手段となります。多重反応モニタリング(MRM)をご参照ください。

Protonated Molecular Ion [プロトン化分子イオン]
あるイオン化法では、プロトン転移プロセスによってイオンを生成します。そのプロセスでは分子イオンそのものが維持されています(最終的には擬似分子イオンと言われます)。例えば、化学イオン化では、サンプルは過剰のリージェントガスに曝され、プロトン化した分子イオンとなります(M+H)。逆のプロセスでは陰イオンが生成します。プロトンを気体分子に転移させて、陰イオン(M-H)あるいは脱プロトン化されたイオンが生成します。

Pseudo-Molecular Ion [擬分子イオン]
一般的に、プロトン付加体(例えばM+H)、またはイオン付加体(例えばM+NH4、移動相に使用されるアンモニウム塩に由来)のことで、化合物を同定しやすい形に変化させたものです。電荷は質量分析計の側で制御します。

Quadrupole (Quad) [四重極]
最も普及している質量分析計のタイプで根幹となる技術です。4 本のロッド(ほとんどの場合、直径1 インチ未満、長さ12 インチ未満)を平行に配置(距離はおよそ1 インチ)します。ロッドには直流電圧(DC)および高周波電圧(RF)がかけられており、荷電粒子がその間を透過する際のフィルタの役目を果たします。電荷を帯びた異なる質量の化合物は、RF/DC の条件を変更することで、特定のイオンのみを通過させ識別することができます。対極に配置されたロッドが対になっており、RF によって正極または負極となります。
RF/DC の設定により、設定された質量電荷比を持つ粒子だけが四重極を通過します(m/z と表され、分子量とほぼ等価になります)。同じ設定の場合、質量の大きい粒子はロッドに対して斜めに通過し、検出器まで届かず(電圧設定はほとんど影響しません)、質量の小さい粒子は、捉えられて出口まで到達せず検出されません。四重極はこのようなマスフィルタ領域の条件を変化させ、安定化することができるため、時間ごとに走査することで複数の分子量を観測することができます。しかしながら、帯電しにくい粒子の分子量はほとんど検出されません。
マトリックスの影響が問題とならないときには、四重極マスフィルタの機能は単独で用いられ、化合物が多くのバックグラウンド(例えばマトリックス由来)の中に存在する時には、もう一組の四重極マスフィルタと組み合わせて識別能を向上させます。初期のデザインでは、2 つの四重極の間にもう一つの四重極をコリジョンセルとして配置したものが用いられていました(従ってトリプル四重極と言われました)が、近年では、より最適化され「タンデム四重極」となっています。

Radical Cation [ラジカルカチオン]
電子は対になって原子の軌道を占有するので、安定した有機化合物のほとんどの全電子数が偶数になります。ある分子から電子1 つが脱離すると、全電子数は奇数、すなわちラジカルカチオンになります。マススペクトル中の分子イオンは常にラジカルカチオンです(EI を参照)。しかし、フラグメントイオンの場合、中性の(荷電していない)フラグメントが失う電子によって、偶数電子のカチオンと奇数電子のラジカルカチオンが生じます。最も単純で最も一般的なフラグメンテーションは、中性のラジカル(電子は奇数)あるいは偶数個の電子を持つカチオンを生成するような結合の開裂です。偶数個の電子を持つ中性のフラグメントから、奇数個の電子を持つラジカルカチオンのフラグメントを生成するような開裂はあまり起こりません。

Radio Frequency [RF 電圧]
「DC(直流電圧)」をご参照ください。

Resolution (10% valley method) [分解能(10%谷法)]
異なる質量電荷比を持つイオンを識別するために、同程度のレスポンスを持つ2 本の近接する質量ピークの最小の分離を示す値です。一般的には磁場セクターで使用され、次のような比で表されます:

2つの粒子の平均質量 / 2つの粒子の質量差

Resolution (M/ΔM) [分解能]
ある質量の分離度を半値幅(FWHM)の分解能で表すものです。10% 谷法は磁場セクターで良く用いられますが、近接する質量ピークが等しいシグナル強度を持つことを前提としています。例えば、四重極の標準的な分解能はFWHM では0.6 Da です。m/z=3000(Da、amu と等価)の測定ピークで計算した場合の分解能は5000 となります。双方の結果を比較する時には、以下の式で大まかに把握することができ、FWHM では10% 谷法の2 倍ということになります。

質量 / ピーク高さの50% のピーク幅

Root-Mean Square Error Measurement (RMS) [自乗平均誤差の平方根測定]
装置の質量精度を評価する方法で、自乗平均平方根またはRMS エラーが用いられます。RMS エラーは以下に示す式で求められ、Eppm はppmエラー、n は質量の数です。

Scanning [スキャン]
磁場や電場の強さなどを連続的に変化させることです。荷電粒子をある範囲でスキャンするためには、電圧(DC およびRF)をコンピュータによって一定時間をかけて走査します。複数のイオンを検出することの利点は、目的の化合物がどこに検出されるかわからない場合にも確実に検出できることです。選択イオンモニタリング、四重極、イオン電流をご参照ください。

Selected Ion Monitoring (SIM) [選択イオンモニタリング]
選択イオンレコーディング(SIR)とも言われます。四重極およびスキャンをご参照ください。四重極でのDC 電圧とRF 電圧は、1 つの荷電粒子(1 つの質量荷電比)のみを検出器へ透過させるよう調整します。その結果、ノイズを低減し、感度を大きく向上させることができます。混合物中の他の粒子は全く検出せず、特定のm/z の全ての粒子を検出するためです。

Thermospray [サーモスプレー]
文献で見られることがありますが、1980 年代の初めに普及したインターフェイスです。Vastal と Blakely が初めて、LC とMS の間に設置するインターフェイスを実用化した功績で認められています。1 mL/min の流速のLC の溶離液がプローブ(チューブサイズは長さ1-2 フィート、内径75- 150μm)で加熱され、生成した蒸気を質量分析計へとスプレーします。霧状のサンプルの脱溶媒によって生成したイオンは、収束して質量分析計のアナライザ部分に導入されます。スキャン、イオン電流をご参照ください。この手法では意味のあるフラグメンテーションはほとんど起こらないため、ソフトなイオン化のスペクトルと言われています。高いバックグラウンドや混合物中の単一のイオンに対しては有効ではありませんが、非常に強い分子イオンが生成するため、質量の大きい分子は、フィルタをかけてフラグメンテーションを行い(MS/MS)、非常に高感度で検出できるという利点があります。ある文献には、ビタミンD の代謝物の分析をpmol レベルで行ったという報告があります。1990 年に APCI が登場するまでは、代謝物分析のような極性の高い化合物のアプリケーションに利用されていました。

Time-of-Flight (TOF) Mass Spectrometer [飛行時間(TOF)質量分析計]
同じ運動エネルギーを受け取ったイオンが真空中を飛行する時間を利用して、異なるm/z を持つイオンを分離する質量分析計です。イオンの速度はm/z によって決まり、イオンが決まった距離を飛行する場合に検出器に到達するまでの時間は、質量の大きいイオンほど長くかかります。

Tuning [チューニング]
特定の化合物に対して一定の条件で最良のレスポンスを得るために、インターフェイスのレンズおよびガスフローを最適化することを言います。一方、キャリブレーションは、質量の取り込みとレポートに関係する機能です。レンズと周辺のハードウェア条件をチューニングすると装置のレスポンスが安定します。この状態で、PEGやNaCsI のような質量が既知の標準物質の測定結果を基準にして、ソフトウェア上に作成したリファレンステーブルを用いてマス軸のキャリブレーションを行います。

Vacuum (torr) [真空]
1 torr =1 mmHg( 1 psi=51.7 torr =0.069 bar= 0.069 atm)。イオンを透過させるには、アナライザ部分を最低でも10-4 torr に維持する必要があります。大気圧に近い圧力になると、イオン分子の相互作用によって荷電粒子の生成が安定していない状態で検出されることになります。化学イオン化(CI)のようなイオン化技術では低真空(より高い圧力)で衝突を起こしています。

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