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このアプリケーションブリーフでは、プロテオミクス解析における 1 mm スケールのクロマトグラフィーの適用可能性を実証します。結果によると、ナノスケールクロマトグラフィーと同等の同定結果を維持しつつ、スループットが 6 倍になりました。
1 mm スケールのクロマトグラフィーに、HDMSE 分析を使用した SYNAPT XS を組み合わせて、複雑なプロテオミクスサンプルの分析を行いました。
今日では、臨床プロテオミクスおよび大規模なコホート分析におけるその応用に対する関心がますます高まっています。従来のプロテオミクス探索では通常、内径 75 μm のカラムを使用し、流速を 0.2 ~ 0.5 μL/分に設定した NanoFlow クロマトグラフィーを用いて、複雑なプロテオミクスの消化物に対して高感度および広い適用範囲を達成していました。しかし、グラジエントおよび平衡化にかかる時間が長いという欠点がありました。1 サンプルにつき、通常、合計 60~180 分の分析時間がかかります。LC の設計は、例えば手締めフィッティング(Waters ZenFit コネクターなど)により、利便性の面で大幅に改善されましたが、ナノスケールのクロマトグラフィーは依然として使用およびトラブルシューティングが困難であり、大規模コホート分析への応用の妨げになっていました。近年、質量分析法の分解能と感度が向上し、内径 300 μm のカラムを使用して、流速を 7~12 μL/分に設定したマイクロフロースケールのクロマトグラフィーが、消化ヒト血漿サンプルの大規模コホートの分析に導入されました 1,2,3。今回は、1 mm スケールのクロマトグラフィーに SYNAPT XS 質量分析計を組み合わせることで、大腸菌やヒト血漿の消化物など、中程度の複雑さのサンプル分析を、同等のタンパク質/ペプチドの同定性能を維持しつつ、短時間内(15 分のグラジエント)で行うことの有用性について紹介します。
1 mm スケールのクロマトグラフィー性能を評価するために、2 種類のサンプル(ヒト血漿、ウォーターズの消化済み大腸菌細胞質抽出物、製品番号:186003196)を使用しました。
7 つの条件および 1 つのプールコントロール(QC)に対応するヒト血漿サンプルについて、Waters ProteinWorks プロトコ-ル(製品番号:176003688)に従い、還元、アルカリ処理、トリプシン消化、および固相抽出(SPE)による濃縮を行いました。内部標準として iRT ペプチド(Biognosys)を使用し、50 μL のサンプルに 1 μL スパイクしました。大腸菌の消化物は 1 μg/μL および 100 ng/μl の濃度に調製しました。
使用した異なるクロマトグラフィースケールを表 1 に記載しています。移動相は、0.1% ギ酸水溶液(移動相 A)と 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液(移動相 B)で構成されています。移動相 B の 3~35% グラジエントを使用してペプチドを溶出し、血漿 3.5 μg を 3 回繰り返し注入しました(1 mm 設定のみ)。様々なサイズのカラムに注入した大腸菌の量を、表 1 に示します。
HDMSE(ポジティブイオンモード)で動作する SYNAPT XS 質量分析計でデータを取り込み、Progenesis QI for Proteomics v4.2 および Skyline v20.1(MacCoss Lab, University of Washington, USA)を使用してデータ解析しました。
15 分間のグラジエントにわたって異なる保持時間の 3 種類の大腸菌のペプチドを抽出し、1 mm スケールのクロマトグラフィーで高いクロマトグラフィー分離が得られることを示しました。図 1 に示すように、半値全幅(FWHM)と 10% ピーク高さでのピーク幅はそれぞれ 0.03~0.04 分および 0.05~0.07 分であることがわかります。各カラム内径での代表的なクロマトグラムを図 2 に示します。評価した各カラムで同定された大腸菌のタンパク質およびペプチドの数を図 3 に示します。興味深い点として、カラム内径を大きくしてもタンパク質同定における差異は小さいですが、一方でグラジエント時間が 90 分(75 μm)から 15 分(1 mm)と 6 分の 1 に短縮し、カラム内径が大きいとスループットの点ではメリットが大きいことが分かりました。
図 4 には 5 つのプールした QC サンプルの重ね書きを示しており、血漿サンプルについて 1 mm スケールで優れたクロマトグラフィー再現性が得られることがわかります。すべてのサンプルにわたり、11 種の iRT ペプチドの保持時間の変動係数(CV)の中央値は 0.05% であることが認められました(図 5)。更に、各サンプル種類の各 iRT ペプチドのピーク面積 CV は、ペプチドの大半で 20% 未満であることがわかります(図 6)。全体で 533 種の血漿関連タンパク質が同定され、偽発見率(FDR)は 1% 未満でした。
1 mm スケールのクロマトグラフィーに SYNAPT XS 質量分析計を組み合わせて使用することで、やや複雑なプロテオミクス解析(大腸菌および血漿の消化物)のための高品質データが得られることが分かりました。同定されたタンパク質およびペプチドの数は、NanoFlow の設定の場合と同等でした。取り込み時間が 90 分(75 μm)から 15 分(1 mm)と大幅に短縮され、サンプルスループットが約 6 倍になっていることから、大規模コホート研究に適しています。更に、この設定では、保持時間およびピーク面積の再現性が非常に高いことが分かりました。
720006833JA、2020 年 4 月