このアプリケーションブリーフでは、従来の HPLC システムから Arc HPLC システムへの高速グラジエントメソッドの分析法移管についてご紹介します。クオータナリー Arc HPLC システムは、バイナリー HPLC システムと同等の優れた注入精度と保持時間の再現性を提供します。
リソースのグローバル化が進む中で、別のラボや離れた場所の間での分析法移管への関心が高まっています。多くの科学者は同等のシステム間での分析法移管を望みますが、これができない場合もあります。ポンプの種類(クオータナリーとバイナリー)が保持時間の特性に影響を与える可能性がある一方で、注入精度など、サンプルマネージャーの特性という側面もあります。システムの種類にかかわらず、あらゆる分析法において、注入および保持時間の精度の両方が重要な性能特性になります。この例では、従来のバイナリー HPLC システムから Arc HPLC システムへの高速グラジエントメソッドの移管性および主な分析性能特性の影響を実証しました。
バイナリーシステムからクオータナリーシステムへの分析法移管は、グラジエント遅延またはデュエルボリュームにおける差異、グラジエント送液機構、2 種類のソルベントマネージャ間の混合(高圧と低圧)により、特有の課題があります。一部の分析法では、特定の種類のポンプがより適していますが1、多くのルーチンの HPLC 分析法は、いずれのシステムでもシステム適合性基準を満たしています。特に、これらの分析法は、いずれのポンプにおいても性能仕様の範囲内(開始 %A および B、流量を含む)にあります。このような条件の下では、通常は分析法の移管が可能であり、絶対的な保持時間基準を使用する場合、ディレイボリューム調整のみが必要となります。
この例では、低分子混合物の非常に高速なグラジエント分離法を、従来のバイナリー HPLC システムから Waters Arc HPLC システムへ移管しました。この非常に高速なグラジエントを用いた分析法は、混合モードおよびグラジエントディレイボリュームが変動する可能性があります。分離の比較により、2 つのシステム間で保持時間のシフトがあることがわかりました(図 1 および表 1)。このシフトは、2 つの特定のシステムのグラジエントディレイボリュームの差(約 0.200 mL)に対応しています。絶対保持時間は分離において最も重要な要素ですが、ピークの確認または同定におけるディレイボリュームの影響を減らすために、相対保持時間が通常は使用されます。ここでは、バレロフェノンをレファレンスにした相対保持時間の比較により、2 つの分析法で選択性が同一であることが実証されています。
2 つの分離での USP 分離度など、その他のクロマトグラフィー特性により、分離の忠実度を更に確認できました(図 1 および表 1)。一部の USP 分離度の値にわずかなばらつきが見られましたが、すべてのピークにおいて USP 分離度は 2.0 を超えており、良好な分離が示されました。また、両方のシステムにおいて USP テーリング値が許容範囲内(1.0 ~ 1.3)でした。ばらつきが生じた理由として、わずかなシステム間の差(フィッティングやプレヒーターなど)が考えられます。さらに、異なる時点で、2 つの異なる特定のカラムおよびサンプル前処理を用いて 2 回の分析を実施しました。その結果、わずかに影響を与える基本的なクロマトグラフィー性能特性として、カラム間のばらつきを排除することはできません。
グラジエントのディレイボリュームにシステム間の差があることから、分析法移管において、グラジエント遅延の調整は一般的に許容されています2。 両方のシステムで同様の分離が得られるように、グラジエント SmartStart を使用して、グラジエントテーブルを修正することなく、注入に対するグラジエント開始時間を調整しました3。 結果に基づいて、グラジエント開始時間が注入の 0.05 分前になるように調整を行いました。その結果、Arc HPLC システムでのディレイボリュームが小さくなり、絶対保持時間がバイナリー HPLC システムにより適合するようになりました。これにより、相対保持時間(RRT)の要件を満たす必要がなくなりました(図 2)。
ポンプとサンプルマネージャーの両方の精度を評価するために、各システムで 6 回の繰り返し注入を実施しました。上述のように、保持時間の精度は移動相送液システムの性能であり、面積や注入の精度は、サンプルマネージャーの性能の影響を受けます。2 つのシステムを比較することで、各システムの保持時間の標準偏差は低く(0.002 分未満または 7 µL 未満)、このような高速の分析法でも一般的な仕様の範囲内に収まっていることがわかります。これにより、ポンプの種類に関係なく、移動相の送液に再現性があることが示されました。ピーク面積の %RSD は、Arc HPLC システムのサンプルマネージャーで注入量 20 µL の場合、0.2% 未満と高い精度であることが実証されます(図 3)。
一般的な HPLC 分析法の多くについて、バイナリーシステムからクオータナリーへの移管で、同等の結果が得られます。具体的には、4.6 × 50 mm カラムでの困難な非常に高速のグラジエント分離の移管で、同等の保持時間と分離結果が得られることが実証されました。各ポンプのグラジエントの遅延により、絶対保持時間の小さな差が観察されました。そのため、相対保持時間の評価が必要になります。グラジエント SmartStart で、注入に対するグラジエント開始時間を調整することで、両方のシステムで同等の絶対保持時間が観察されました。両方のポンプで高い保持時間精度が認められ、標準偏差が 1 秒未満または 7 µL 未満でしたが、Arc HPLC システムの注入精度の方が、従来のバイナリー LC システムより優れていました。
720006943JA、2020 年 6 月