有効な抗マラリア薬である硫酸ヒドロキシクロロキン(図 1)は、多くの低分子薬物と同様、新型コロナウイルスの治療薬候補として調査が行われています。現在の臨床的証拠からは、SARS-CoV-2 に感染した入院患者に対してヒドロキシクロロキンを使用した場合の効果は立証されていませんが、ウォーターズでは、COVID-19 パンデミックの初期段階に、改良した分析法の検証を始めました。このアプリケーションブリーフでは、硫酸ヒドロキシクロロキンの分析のための MS 適合条件を用いた迅速な HPLC/UV 分析法を提供しています。質量分析法(MS)により、製造プロセスまたはルーチン検査で生じる新しい成分や未知の成分を正確に同定することができます。硫酸ヒドロキシクロロキン錠の現在の USP モノグラフ分析法(USP42-NF37)と比較すると、新しい分析法では分離能が高く、テーリングが少なく、分析時間が短縮されています。COVID-19 の状況下でのヒドロキシクロロキンの最終的な臨床結果の如何にかかわらず、これらの分析の進歩は、一般的なヒドロキシクロロキン分析にも適用できます。更に、この研究は、部分的にその他の低分子治療法にも移管できます。
ヒドロキシクロロキン(HQ)は、長年にわたってマラリアの化学的予防法として処方されており、最近では慢性自己免疫疾患の治療に役立つとされています1。 初期の in vitro 研究では、この医薬品の有効成分が SARS-CoV-2 の感染を阻害する可能性が示されていました2。 一方、現在の臨床のコンセンサスとして、臨床研究の主な対象となる患者集団である COVID-19 入院患者において、ヒドロキシクロロキンの効果は立証されていません3,4,5。いずれにしても、SARS-CoV-2 感染初期に、または暴露前予防投与の形で、同薬物を使用することについては疑問が残っています6。COVID-19 パンデミックの初期段階に、政府および製薬会社が積極的にヒドロキシクロロキンの臨床研究を行っている間、当社では、医薬品の開発および製造における、高速で高性能な MS 適合の分析法の潜在的ニーズを支援するための新たな分析法を検証しました。
このアプリケーションブリーフでは、USP システム適合性の要件を満たしつつ、MS 適合バッファーを使用した硫酸ヒドロキシクロロキンの高速で信頼性の高い HPLC/UV 分析法を紹介します7。
COVID-19 の状況下で、ヒドロキシクロロキンが使用されるかどうかにかかわらず、この新しい分析法はヒドロキシクロロキン分析において一般的な利用価値があり、同様の低分子治療法にも部分的に移管できる可能性があります。
硫酸ヒドロキシクロロキン錠についての最新の MS 適合分析法および現在の USP 分析法の条件を表 1 にまとめています。
硫酸ヒドロキシクロロキン錠の現在の USP モノグラフ分析法により、システム適合性要件に従って、新しい HPLC 分析法の性能を検証しました6。 新しい HPLC MS 適合条件で実施した分析法のシステム適合性の結果は、USP 基準を正しく満たしていました(表 2)。新しい条件で分析すると、USP 分析法と比較して、ヒドロキシクロロキンとクロロキンの間の分離が大幅に向上しました。標準溶液の 5 回の繰り返し注入におけるピーク面積および保持時間の相対標準偏差は、0.1% 未満でした。更に、新しい分析法により、ヒドロキシクロロキンおよびクロロキンの両方で USP テーリングの改善が得られました。
このアプリケーションブリーフでは、硫酸ヒドロキシクロロキンの MS 適合の分析法を提供しています。この分析法では、MS 分析を可能にすることで、ヒドロキシクロロキンの特性解析および開発に使用できる分析ツールキットが拡張されます。MS 分析により、個別の標準試料を用いずに、化合物の定性的同定が可能になります。更に、現在の USP モノグラフの分析法と比較して、この新しい分析法により分析時間が短縮され、分離が改善し、ピークのテーリングが少なくなることが分かりました。COVID-19 の治療薬候補としてヒドロキシクロロキンが役立つかどうかにかかわらず、一刻を争う医薬品製造過程において、時間の短縮は重要になると考えられます。更に、非常に重要な品質管理環境において、頑健な分析性能により信頼性を向上させることができます。
720006917JA、2020 年 5 月