N-ニトロソアミンは潜在的な発がん性を有し、ヒトが消費するさまざまな日用品や医薬品に検出されるため、さまざまなマトリックス中のこれらの化合物のモニタリングに強い関心が持たれています。これらの不純物には、ng/mL 未満の範囲で検出できる高感度で選択性の高い検出法が必要です。以下の分析法では、高感度で選択的な QTof 測定モードを使用することで、0.1 ng/mL 以下の濃度の、広範に分析されている 6 種類の N-ニトロソアミン(NDMA、NDEA、NMBA、NDBA、NEIPA、NDIPA)の同時検出・定量を実現できます。この測定モードは、Tof MRM と呼ばれ、四重極で分析化合物のプリカーサー m/z を分離することで選択性を提供し、目的のシグナルのみを増強させることができます。ここでは、UPLC クロマトグラフィー分離、および Tof MRM 分析法を使用して分析した 6 種類の N-ニトロソアミンの LLOD、LLOQ、および直線性について説明します。NDMA および NDEA についてこの分析法の定量性能を記録し、1.25 および 12.5 ng/mL の品質管理(QC)レベルの両方で、精密で正確、かつ再現性がある測定法であることを実証しています。さらに、取り込みおよびデータ解析に UNIFI 科学情報システムにより、調査対象である N-ニトロソアミンの GXP 対応 HRMS 分析用の最新のプラットホームが提供されます。
N-ニトロソアミンは、一般に硝酸塩とアミンの間の反応産物として形成される低分子化合物です1。 これらの化合物は、潜在的発がん物質として知られており2、ヒトへの露出を低減するために積極的なモニタリングが必要です。 これらの化合物は、自然水系2、タバコ製品2中に存在することや、医薬製品内の不純物として認められることがあります1,3,4。 特に、食道逆流疾患および胃/腸潰瘍の治療用に薬局で入手できるヒスタミン 2 ブロッカーであるラニチジンに、N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)が 2019 年に検出されたことに注意が向けられています5。 NDMA、N-ニトロソジメチルアミン(NDEA)、N-ニトロソ-N-メチル-4-アミノ酪酸(NMBA)も、アンジオテンシン II 受容体遮断薬(ARB)(サルタン系の薬物 - 心不全および高血圧の治療に使用される)の不純物として見つかっています4。 ARB 薬剤には、これら以外に、N-ニトロソエチルイソプロピルアミン(NEIPA)、N-ニトロソジイソプロピルアミン(NDIPA)、N-ニトロソジブチルアミン(NDBA)という 3 種のN-ニトロソアミンも存在する可能性があると疑われています4。
これらの有害な化合物を比較的低濃度(ng/mL 以下)で積極的にモニタリングすることは優先度が高く、それには高感度で選択的な分析法が必要です。液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)は、広範なマトリックス中の N-ニトロソアミンの信頼性の高い同定および定量に使用され、成功を収めてきました1,2。特に、タンデム四重極 MS でのマルチプルリアクションモニタリング(MRM)などの選択的取り込みを使用すると、N-ニトロソアミンについて、0.1 ng/mL 以下の定量下限(LLOQ)を達成できることが証明されています6,7。N-ニトロソアミン分析に高分解能 MS(HRMS)プラットホームを使用する分析法も検討され4,8、正確な質量測定を使用することにより、さらに特異性が高くなっています。
ここでは、Xevo G2-XS QTof で Tof MRM を使用し、6 種類の N-ニトロソアミン(NDMA、NDEA、NDIPA、NEIPA、NMBA、NDBA)を高感度で選択的に検出できる性能を実証します。この方法により、既知のプリカーサー分子を四重極で分離した後、指定したプリカーサーまたはプロダクトイオンのシグナルを選択的に増強することができます。この組み合わせにより、N-ニトロソアミンの選択性と感度が通常のフルスキャン MS と較べて強化されるとともに、HRMS に固有の正確な質量測定の特異性という利点も得られます。
ACQUITY UPLC I-Class および Ion Sabre II APCI プローブを装着した Xevo G2-XS QTof MS を使用して、NDMA、NMBA、NDEA、NDIPA、NEIPA、NDBA の分析を行いました。データ取り込み、解析、レビューは、データのトレーサビリティー、高度なセキュリティなどの GxP 対応機能が含まれている包括的な情報プラットホームである UNIFI 科学情報システムを使用して行いました9。 6 種類のニトロソアミンの分離(図 1)は、以前に説明した ACQUITY UPLC HSS T3 カラム(製品番号 186003539)を使用する LC 分析法6を用いて行いました。 表 1 にこの分析で採用した LC-MS 条件を示します。保持時間および最適なイオン輸送設定の決定に従い、Tof MRM 測定を用いて選択的 QTof 分析法を開発しました。Tof MRM は、指定したプリカーサー質量の時間分割での選択によって動作します。この質量は四重極で分離され、コリジョンセルに送られて、そこでイオン輸送または衝突誘起解離(CID)が起こります。次に、ユーザーが指定する m/z 値が、Tof 領域でのプッシャー同期によって選択的にシグナル増強されます10。 次に、正確な質量測定がすべてのイオンについて行われ、指定した m/z 値について抽出したイオンクロマトグラムが UNIFI ソフトウェアによって生成されます。この試験では、N-ニトロソアミン化合物について、NDMA、NMBA、NDIPA、NEIPA、NDBA のプリカーサーイオンと選択したプロダクトイオンの両方について、選択的増強を行いました。NDEA については、シグナルが多いため、選択的増強はプリカーサーイオンについてのみ行いました。図 2 に、分析法開発の一環として最適コリジョンエネルギーを実験により決定した、最終的な Tof MRM 測定分析法を示しています。
開発した分析法を使用した場合の定量性能は、2 つの希釈系列(0.01 ~ 100 ng/mL の範囲)を使用し、各ポイントで 3 回繰り返し注入(計 6 回注入)して評価しました。得られた検出および定量の下限(LOD/LOQ)、直線範囲、R2 値は表 2 に記載されており、今回試験した 6 種類の N-ニトロソアミンを ng/mL 未満の濃度で検出できることを実証しました。NDMA および NDEA について、さらに 2 つの QC レベル(1.25 ng/mL および 12.5 ng/mL)での測定値を図 3 に示しています。このように、両化合物の両レベルにおいて、測定の確度および精度が高いことがわかります。両化合物について 5 回の繰り返し注入にわたって計算した濃度を平均すると、実際の濃度との差が 15% 以内であることがわかります(図 3a および 3b)。さらに、計算した濃度に基づく %RSD は、両 QC レベルの NDMA および NDEA について 7% 未満でした。このデータで実証されているように、開発した UPLC-Tof MRM MS 分析法を使用することで、これら 2 つのよく知られた N-ニトロソアミンの信頼性の高い定量が実現しています。
図 3a. QC レベル A(12.5 ng/mL スパイク)および B(1.25 ng/mL スパイク)での計算濃度(平均真度)の NDMA のサマリープロットおよび検量線(0.1 ~ 100 ng/mL)
図 3b. QC レベル A(12.5 ng/mL スパイク)および B(1.25 ng/mL スパイク)での計算濃度(平均真度)の NDEA のサマリープロットおよび検量線(0.025 ~ 25 ng/mL)
潜在的な発がん性を有する N-ニトロソアミンの分析法には、ng/mL 未満の濃度で正確に測定する十分な感度が必要です。この研究では、Xevo G2-XS QTof MS で Tof MRM を UPLC クロマトグラフィー分離と組み合わせることにより、NDMA、NDEA、NMBA、NDIPA、NEIPA、NDBA について 0.5 ng/mL 以下の LLOQ レベルが達成できることを実証しました。分析法の定量検定によっても、NDMA および NDEA について、2 つの QC レベルにおいて、ng/mL 前半の範囲で信頼性の高い正確な測定(15% 以内)ができることが実証されました。全体として、UNIFI 科学情報システムを使用する Xevo G2-XS QTof MS と ACQUITY UPLC の組み合わせは、GxP 対応の、高感度で選択性と特異性の高い N-ニトロソアミンの HRMS 定量のための最新のプラットホームを提供します。
720006951JA、2020 年 7 月