独立行政法人労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター様

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独立行政法人労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター 
大西誠様(理学博士)、笠井辰也様(日本毒性学会認定トキシコロジスト)、梅田ゆみ様(獣医学博士) にお話を伺いました。

―本日はお忙しいところどうもありがとうございます。

大西様(以下敬称略): ありがとうございます。

 

―まず初めに皆様の部署の簡単なご紹介をお願いできますでしょうか。

大西日本バイオアッセイ研究センターの運営は厚生労働省から独立行政法人労働者健康安全機構* に委託されており、その組織には動物試験を行うためのいくつかの部門があります。我々は、その組織の一部に所属しています。吸入暴露による動物試験を行う吸入試験室、化学物質等の化学分析を行う分析室、動物の臓器の組織病理学的検査を行う病理検査室等にそれぞれ所属しています。

* 2016年4月より日本バイオアッセイ研究センター様の組織名は「中央労働災害防止協会」から「独立行政法人労働者健康安全機構」に変更になりました。

 

 ―カーボンナノチューブの微量定量に成功されたということですが、あまりなじみのない方もいらっしゃるかと思いますので、まずはカーボンナノチューブの吸入暴露試験について、貴センターの笠井様からご紹介いただけますか。

笠井様(以下敬称略):カーボンナノチューブは熱伝導性、電磁波吸収性、機械的強度等に優れた特性を持っております。蓄電池、燃料電池等に既に使用され、今後さらなる用途の拡大が大いに期待されている物質です。現在、ナノマテリアルがずいぶん脚光を浴びていますが、その中でも多層カーボンナノチューブは、今後おそらく日本が一番力を入れて製品あるいは商品に利用していこうという物質だといわれています。多層カーボンナノチューブは軽く、そしてその構造から空気中に舞いやすく、労働者はそれを吸ってしまう危険性があります。そういった意味でカーボンナノチューブの吸入毒性試験を実施しなければいけないという機運が高まってきました。

カーボンナノチューブは空気中でも凝集しますので均一に実験動物に暴露するには高度な技術を要します。我々の最終目的は、ラットを用いた全身暴露による発がん性試験です。その際、動物にカーボンナノチューブを暴露するために、100匹のラットを収容したチャンバーと呼ばれる縦3メートル、横2メートル位で約10立米の部屋の濃度環境を一定・一様に整える必要があります。

これを満たすには、MWCNTエアロゾル発生装置の性能が重要となります。均一な暴露濃度環境を長時間維持しながら、かつ長期間故障しない等の厳しい条件をクリアーする必要があり、既存の発生装置では暴露が困難でした。そこでまず、専用の発生装置を開発して、試運転、そして動物を使った性能確認試験を経て、2週間暴露、13週暴露を行い、現在は発がん性(2年間暴露)の試験を実施中です。

 

―梅田様、カーボンナノチューブを動物に投与して、その影響はいかがですか。

梅田様(以下敬称略):先ほど説明があった当センターで開発した暴露装置を使って実験を行いました。まずは、濃度の設定を行うための短い(2週間)試験から行いました。この試験は現在報告書や論文2で発表しております。続いて13週ほどの少し長い試験を実施しており、現在はこの試験の結果も出ております。カーボンナノチューブを吸入暴露させると肺に異物に対する炎症性変化や線維化病変といった影響が見られました。

その際、どのぐらいの量が肺に入ったらこのような病変が起きるのかということが重要なポイントになります。つまり、量と病変との関係を確認するため、肺に多層カーボンナノチューブが吸い込まれた量を把握することが重要になります。

 

―実際に吸入されたカーボンナノチューブの量と病変との関係を正確にモニターするため、カーボンナノチューブの量を測定する必要があるということですね。その測定方法を開発された経緯を教えていただけますか。

大西:カーボンナノチューブというのは炭素だけでできている繊維状の物質です。炭素だけでできているということと、どのような溶液にも溶解しないという特性を持っているので分析がかなり困難です。唯一、炭素分析計で測定できるという報告がありますが、それでも定量下限として1マイクログラムが限界であると聞いております。しかもその装置は汎用的な装置ではなく、日本でも特殊な分析の領域になります。

私は昔、大気中の多環芳香族という発がん性物質の研究をしていました。その多環芳香族もカーボンナノチューブと類似した構造を持っています。同じ種類同士ですと、吸着特性があるだろうと考え検討を始めました。結果は思った通りで、カーボンナノチューブに、マーカーと呼んでいますが多環芳香族が吸着しました。そしてマーカーを有機溶媒で脱離し、カーボンナノチューブとマーカー量の間に相関関係があって、カーボンナノチューブの量を液クロで測定できることを確認しました。

 

―今回大西様がご発表された論文4 を拝見させていただいきました。その中で、弊社のUPLC蛍光検出器をご使用されていますが、UPLCの導入に至った経緯を教えていただけますでしょうか。

大西:当センターが開所した30年ぐらい前は、ガスクロとか液クロなどの装置を導入して化学物質を測定する必要がありました。当時初めて導入した高速液体クロマトグラフが日本ウォーターズの機器でした。価格は確かに国内の製品よりも少々高めだったのですけれども、性能がいいということはよく知っていました。しっかりしたつくりで故障もなく、ポンプは安定した送液ができる、当時としてはとても信頼性が高い高速液体クロマトグラフだなと思いました。

また、それだけではなくOasisHLB(ポリマーベース逆相固相)など前処理カラムも使って薬物動態の研究等に役立った経緯もあります。そういったことからUPLCはどのメーカーの液クロも太刀打ちできない液クロだということを聞いて導入を決めました。

―ありがとうございます。実際にUPLCを使っていただいた感想はいかがでしたか。

大西:今回のカーボンナノチューブの高感度測定方法開発には、UPLCを使用してほぼ2年間分析法を検討しました。分析時間が長いと分析検討時間がかります。今までのコンベンショナルな液クロで10分以上もかかった分析時間がUPLCでは1.5分ぐらいです。分析時間が短くなると、1日に何度も検討ができ、微量定量法の分析法開発を効率的に行うことができます。UPLCを使用した感想として一番に挙げられるのは、本当に短時間で分析ができるということで、再現性・信頼性のデータを得るために、非常に重要なことでした。

今回マーカーに用いた多環芳香族は微量でも蛍光を放ちますのでUPLCの蛍光検出器を用いました。特にUPLCの蛍光検出器は高感度で、マーカーのピコレベルの測定が可能です。かつ再現性も非常に素晴らしいものがありましたので、カーボンナノチューブの微量定量に最適なシステムだと感じています。

―今回のお仕事で、一番ご苦労された点を教えていただけますでしょうか。

大西:定量下限です。論文では定量下限は絶対量で0.2マイクロになっています。さらに高感度化を図り、現在では0.04マイクロの定量下限を実現しています。

 

―2年間という非常に長期に渡る分析検討をUPLCで実施された感想はいかがでしたか。

大西:チェックバルブとかプレカラム等消耗品の劣化による交換は行いましたが、ポンプ等に特に問題はありませんでした。また、ソフトウェアは最低限の条件を入れるだけで変更できますので、非常に使いやすいと感じました。

―弊社の製品への要望はなにかございますか?

大西:現在1検体あたり1.5分の分析をしており、従来の分析に比べ分析時間の短縮と高感度化を図ることができましたが、もしカラムの改良や液クロの高性能化によってさらなる感度化が図れるといいですね。もちろん1.7μmよりも粒子径の小さいカラムをつくるとか、あるいはそれに対応できる液クロをつくるとかというのはとても難しいことだと思いますが、そういうことが行われたらきっともっと感度が上がるのだろうと感じています。

―弊社のCORTECSというカラムはご存知でしょうか。

大西:いえ知りません。

―去年発売した粒子径が1.6μmのソリッドコアパーティクルカラムで、従来のUPLCのカラムに比べて、カラム効率が向上します。

大西様のようにUPLC分析でさらに分離・感度を向上されたい場合にお勧めしているカラムです。また後日ご案内させていただきますのでご検討いただければと思います。

大西:ありがとうございます。検討したいと思います。

―ぜひ。

―ご研究の今後の展望についてお伺いできますか。

梅田:2年間暴露しますと、肺に吸入したカーボンナノチューブはある程度の蓄積があるので、量的には十分測定可能です。一方、肺以外の組織にカーボンナノチューブが移行する可能性があり、特に、胸腔内へのカーボンナノチューブの移行の可能性はさらに追求したい部分なのですが、胸腔内のカーボンナノチューブの量は肺に比べかなり微量になると予想されます。2年間暴露したとしてもおそらく少ない量しか存在しないのではないかと思いますので、病変とカーボンナノチューブの量との関係をつかむために、微量定量化がより必要です。

―今後も詳細な検証を行われるには、さらなる高感度化が望まれていくということになるのですね。

大西:それは本当に世界を挙げてみんな追求すべきところであります。

 

―最後に日本バイオアッセイ様のご紹介を頂戴してもよろしいでしょうか。

大西:労働現場で使用されている化学物質として、年間多くの新規物質が製造されており、職業がんをはじめとして重篤な健康障害を起こす可能性があるものもその中にはたくさんあるかもしれません。昭和52年に労働安全衛生法が改正になりまして、新たに開発された化学物質については、それが労働現場で使用される前に有害性を調査することが法律的に義務付けられ、一方で、既存の化学物質については、国自らが有害性の調査を実施するということになりました。


これに伴い、国は、事業者の行う有害性調査を強力に支援し、また、既存化学物質の有害性調査を実施するために、日本バイオアッセイ研究センターを設置しました。またカーボンナノチューブに関して、動物実験だけではなく、細菌、培養細胞を用いた遺伝毒性試験5 も行われており、化学物質によって変異原性または染色体異常が起こるかどうかについて確認をする部署もございます。

―本日はお忙しい中ありがとうございました。

 

 


1 Tatsuya Kasai, Kaoru Gotoh, Tomoshi Nishizawa, Toshiaki Sasaki, Taku Katagiri, Yumi Umeda, Tadao Toya, Shoji Fukushima. Development of a new multi-walled carbon nanotube (MWCNT) aerosol generation and exposure system and confirmation of suitability for conducting a single-exposure inhalation study of MWCNT in rats. Nanotoxicology, 2014, 8: 169-178

2 Yumi Umeda, Tatsuya Kasai, Misae Saito, Hitomi Kondo, Tadao Toya, Shigetoshi Aiso, Hirokazu Okuda, Tomoshi Nishizawa, Shoji Fukushima. Two-week Toxicity of Multi-walled Carbon Nanotubes by Whole-body Inhalation Exposure in Rats.  Journal of Toxicologic Pathology, 2013, 26: 131–140

3 Tatsuya Kasai, Yumi Umeda, Makoto Ohnishi, Hitomi Kondo, Tetsuya Takeuchi, Shigetoshi Aiso, Tomoshi Nishizawa, Michiharu Matsumoto, Shoji Fukushima. Thirteen-Week Study of Toxicity of Fiber-like Multi-Walled Carbon Nanotubes with Whole-Body Inhalation Exposure in Rats.  Nanotoxicology, 2014, in press

4 Makoto Ohnishi, Hirofumi Yajima, Tatsuya Kasai, Yumi Umeda, Masahiro Yamamoto, Seigo Yamamoto, Hirokazu Okuda, Masaaki Suzuki, Tomoshi Nishizawa, Shoji Fukushima.  Novel method using hybrid markers: development of an approach for pulmonary measurement of multi-walled carbon nanotubes.  Journal of Occupational Medicine and Toxicology, 2013, 8: 30

5 Masumi Asakura, Toshiaki Sasaki, Toshie Sugiyama, Mitsutoshi Takaya, Shigeki Koda, Kasuke Nagano, Heihachiro Arito, Shoji Fukushima. Genotoxicity and Cytotoxicity of Multi-wall Carbon Nanotubes in Cultured Chinese Hamster Lung Cells in Comparison with Chrysotile A Fibers.  Journal of Occupational Health, 2010, 52: 155-166

第41回日本毒性学会学術年会のシンポジウムで、ナノマテリアルについて、日本バイオアッセイ研究センターの福島所長が今回の取材内容を含めて発表します。また、同年会のポスターセッションでも大西様および笠井様が同様に発表します。