一般財団法人 化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所様

Users Voice お客様活用事例トピックス

一般財団法人 化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所 
研究第一部 研究第二課 
主任石田 和也様、尾崎 博道様にお話を伺いました。

 

―本日は、ユーザーボイスに、ご協力いただきありがとうございます。

石田様(以下敬称略):お世話になっています。

―まず初めに、今回、エイコサノイドの一斉分析方法を作成された背景について教えていただけますか。

 石田:ここ数年、メタボロミクスやリピドミクスが、学会などでテーマとして取り上げられる機会が非常に増え、CERI にもメタボロミクス、リピドミクスの測定ができないかといった問い合わせがありました。ただ、リピドミクスと言いましても、測定対象はトリグリセリドやリン脂質など非常に多く存在する物質から、エイコサノイドのようなごく微量な物質まで様々です。中でも、エイコサノイドは、生体中では局所的かつ短時間で作用するメディエーターとして重要な物質であり、薬理や毒性分野で古くから注目されています。一方、分析が非常に難しいような物質でもあり、かつ、異性体も含め非常に種類が多いので、そういったエイコサノイドを一斉分析できないかというような問い合わせがいくつかありました。最近、MS/MS の機能が高くなったことも、エイコサノイドを一斉分析できるツールを作ろうという動機付けとなりました。

 

―分かりました。この分析を作成されるにあたって、想定したサンプルというのは、何でしょうか。やはり血液が中心になると想定されていましたか。

石田:経時的にというと、血液もそうですし、培養細胞系などでも研究が行われていますので、そういったサンプルもテーマとして挙がりました。他には、脳神経系のサンプルなど、いろいろなものが挙げられます。

 

―分析法を開発されるにあたり、対象とするエイコサノイドの数と分析時間の目標は、どのように設けられたのですか。

石田:アラキドン酸から代謝されて出てくる主要な物質を、押さえられるようにというところは目指しています。いったん分析系ができた段階で、スループットを上げる必要性がありますので、改良していきました。

 

―今、現状としては、1サイクル何分の分析時間でしょうか。

尾崎様(以下敬称略):洗浄と平衡化を含めて45 分ぐらいです。分離を重視してやっています。お客様が自前で測定する場合は結構スループットも大事だと思いますが、私たちは受託でやっておりますので、そのお客様が時間的に厳しい部分も含めて、少し長めの分析条件で丁寧にやるようにしています。

 

―エイコサノイド類は、質量が同じものが結構な数あると思いますが、分離条件の設定が難しいと思います。また、ロイコトリエンなど、ピーク形状がテーリングし易い物質もありますが、LC 条件で苦労なさったところとはございますか。

尾崎:やはり同じような分子量のものが多いので、どうしてもMRM トランジッションだけで分けられないものもあります。そういった物質は15 cmの長いカラムで、時間をかけて分離しています。ロイコトリエンに関しましては、CERI では、去年からメタルフリーカラムを販売していますので、そちらで分析します。テーリングは、金属との配位も原因の一つだと思いますが、それが抑えられて、ピーク形状をシャープにすることができます。

 

―どの部分がメタルフリーになっているのでしょうか。

尾崎:まず、両端のフリッターがポリマーになっていて金属ではありません。あとは、一般的なメタルフリーカラムは、PEEK が内側に入っているのですけれども、このカラムは、内壁面がガラスになっています。特に、脂溶性が高くなればなるほどPEEK に吸着するので脂質に向いています。エイコサノイドではないのですが、リン脂質のように脂溶性が高く、なおかつ金属に配位しやすいものに強みを発揮します。

 

質量分析計のメソッドに関してはいかがでしょうか。何か苦労された点が御座いますか。

尾崎:苦労というわけではないのですけれども、ピークが太いものもあれば、細いものもあったりしますので、御社のMass のソフトウェアは、自由にトランジッションのウィンドウを決められたり、分解能も自由に決められたり、ソフトウェアの設定の自由度が高かったので、御社の装置を使ってよかったです。

 

―多成分を、低濃度で測定しようとすると、Dwell time の最適化なども必要になってきますが、ソフトウェアの改善でこうした作業の負担も軽減されてきていると思います。

石田:私も尾崎も、以前の部署で、御社のQuattro Premier を使っていたので、その当時から比べると、メソッドの作成はすごく楽になっていると思います。

尾崎:本当に楽になっています。化合物1個足すのも減らすのも楽ですし、Dwell time を全然計算しなくてすみますから。

 

―そうですね。取り込み時間を変更できる設定が、32 だったのが今では1,024 まで増えました。化合物ごとにそれぞれ測定時間を設定するという考えが導入されまして、そういう使い方をするとなると、確かにそれぐらいあった方が使い勝手がいいのかなと。

石田:今、エイコサノイドは66 物質を測定対象としていますが、他の一般代謝物であれば、多いと150 から200 物質のトランジッションを組まなければいけません。理想を言うと、そこに確認イオンを各物質加えて、内部標準物質も複数物質と考えると400、500 のトランジッションを組めるというのは、理想的ですね。

 

―保持時間がきちんと毎回同じでないとピークに合わせて、トランジッションを組むというのも難しくなると思いますが、そのあたりに関してはいかがですか。

尾崎:そうですね。UPLC の再現性はかなりよくて、条件さえきちんと整っていれば全くと言ってよいほどリテンションタイムがずれないです。逆に例えば、サンプルが原因でカラムヘッドが詰まっていったりすると、分析のたびに一定時間早くなってくるぐらい再現がいいので、トラブルの原因がすぐに分かったりですとか、UPLC は本当に使い勝手がよいという印象があります。

 

―UPLC の再現性に関しては、ウォーターズでは、インジェクションする際にポンプのプランジャーの位置が一定になる様に制御したり、移動相がカラムに入る前に加温するアクティブプレヒーターを装備したり、色々と細かな部分まで作りこみをしています。

石田:カラムのコネクションの前に付いている金属のことですか。

―そうです。

―細かい話ではありますが、積み重ねるとシステムとして違いが出てくると思います。

尾崎:分析時間が長くなればなるほど、再現が大事になるというのを、今の仕事になってからすごく痛感しています。以前の部署でQuattro Premier を使っていたときは、5 cmのカラムを使った短いメソッドが多かったので、あまり意識していませんでしたが、エイコサノイドのように分析時間の長い条件になってくると、溶出時間のばらつきが大きくなってしまいます。そういう意味では再現性が高いというのはすごく大事だと思いますし、すごく助かっているところです。

 

―インジェクターの再現性やキャリーオーバーに関して、何か気になるとか、問題とかはありませんか。UPLC 側のインジェクターとしての再現性などに関して。

尾崎:UPLC のインジェクターはもう本当に文句なしです。システムによってはピーク形状がちょっとしたことで悪くなったり、キャリーオーバーがひどいインジェクターもあったりしますが、今使っている ACQUITY UPLC I-Class は全然問題ないですね。

 

石田:特に微量物質を見ると、キャリーオーバーは非常に重要な問題ですが、現状、それが問題になったということはないので、非常に再現よくキャリーオーバーも少ない装置だというのは感じています。

 

―このような多成分分析を行う上で、質量分析計に必要な要件とは何でしょうか。

尾崎:単一物質ではピンポイントで条件が決められるのでよいのですが、多成分になればなるほど、ある程度設定がイージーで、パラメーターを微調整しなくても全物質で感度が上がるような汎用性があることが大事だな、という印象があります。あとは、エイコサノイドに関しては、とにかく感度が必要です。

―マトリックスの影響に関してはいかがでしょうか。

石田:どうしても多成分を同時に見ようとすると、あまり細かく前処理をできないというのもあります。またエイコサノイドは性質が似ているので、多少クリーンアップはしやすい方ではありますが、除ききれないマトリックスというのは多くあります。ですので、私たちとしては、必ず同一日に同時進行で前処理を行ったものでしか、比較をしないようにしています。あと、必ずQC サンプルとしてプールサンプルを使って、その再現性の確認を分析シーケンスの前後で入れており、そこの安定性、再現性を確認したうえで解析をしています。そのようにして、どうしても除ききれないマトリックスの影響というものを極力下げるようにしています。

 

尾崎:やっぱりそうですね。イオン源の強さといいますか、汚れに強いと本当に助かります。そういう意味では、今使っているXevo TQ-S は何度分析してもあまり感度が下がらないので、やはりそういうのが大事かなという印象はあります。特にエイコサノイドは結構サンプルを濃縮しますので、イオン源への負荷が強いのですが、今のところは問題なく分析できています。

 

―とは言っても、多数の検体を測定すれば、やはりイオン源が汚れてくると思いますが、メンテナンスに関しては以前と比べていかがでしょうか。

尾崎:そうですね。やはりコーンが外しやすくなりました。Quattro Premier の頃も、すごくメンテが簡単で、コーンを容易に外すことができましたが、今のXevo TQ-S になって、もっと簡単になりました。

 

―イオン源にアクセスしやすくなって、そこも結構大きいかなと思います。

尾崎:そうですね。イオン源が観音開きになるのも意外に便利で、以前は外した後、気を遣いながらイオン源のブロックを置くとか、そういう神経も遣いました。細かいところなのですけれども、そういった部分もあまり気を遣わずにメンテナンスできるのですごく助かりますね。

 

―なるほど。そうなのですね。

尾崎:そういう意味ではメンテナンスが楽で、メンテナンスする人による差が出ないと言いますか、誰でもできると言ったら言い過ぎかもしれませんが、助かるところでもあります。

 

―今までやられて、一番苦労されたサンプルは何かありますか。

尾崎:苦労したサンプルというよりは、最初が大変でした。測定対象物質数は多いし、大雑把に作ったメソッドでは感度が全然足りないですし。とにかく、簡単にやって何とかなるものではなかったので。

 

―そうですよね。どれぐらい開発時間をかけられたのですか。

尾崎:半年で受託を始めて、その後もずっと改良していっては、お受けできるサンプルの種類を増やしたり、再現を良くしたり。ですので、ずっとやっていますね。かれこれ3 年くらいでしょうか。今後もずっとこの検討・改良が続くのだろうなと。

 

―でもそれだけエイコサノイドに着目されているものだということですよね。

石田:はい、そうですね。

 

―分析法に関して最もアピールされたい点はどんなところでしょうか。

石田:やはり最近、代謝物を網羅的に測定するのではなく、ある特定の物質だけを定量したいという相談も多いので、そういうものにも柔軟に対応できるようにしているところはアピールポイントです。

尾崎:あとは1検体からでもお受けできるということです。

石田:事前検討でどんな結果が出るのか分からないとか、本当に見ようとしている応答が見られるか分からないというようなご相談からでも受けていますので、いろいろ相談をいただければと思います。

 

―お客様の研究に合わせて、数であるとか物質であるとか、メソッドもそこに合わせて選択するとか、そういうところを柔軟に対応されているという感じですか。

石田:そうですね。例えば、1物質だけを定量したいということであれば、それ専用に短時間のメソッドを作って対応しています。前処理もですが、分析条件も最適化しています。なので、条件作成から承っています。

CERI は、エイコサノイドに関しては、測定対象としているものは全部標準品を買って、トランジッションも標準品をもとに作っていますし、必ず標準品を測定してリテンションタイムも確認するようにしていますので、再現性や精度は非常に高いものになっています。最近は誘導体化することで、ごく微量のサンプル量からでもエイコサノイドを幅広く測定できるようにしています。日々改良していて、よりよいものをご提供できるようにしています。

 

―今後とも、いろいろ進化させて分析を進めていかれるということですね。

石田:そうですね。まだ測定できていない代謝物も多いので、幅広いニーズに対応できるようにする予定です。

 

―弊社の装置も、先ほどのカラムのヒーターの話ではありませんけれども、少しずつ改良を加えて、よりよいシステムにしていますので、ぜひ今後ともご活用いただいてよろしくお願いいたします。

石田:よろしくお願いします。今よりも、ダイナミックレンジの広い、感度のいい、キャリーオーバーの少ない装置を期待しています。

 

―精進いたします。

石田:よろしくお願いします。

 

―どうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。